整体治療や鍼灸って何だか怪しい?その起源や効果についてのお話(整体編)



こんにちは。神戸市垂水区のokada鍼灸整骨院です。


先日は「鍼灸治療や整体って何だか怪しい?その歴史や効果についてのお話(鍼灸編)」をお届けしましたが、今回は整体治療編になります。


近年、SNSや動画サイトでは「バキバキ整体」「一瞬で歪みを整える!」といった、整体にかかわる映像、発信がたくさんあります。 それを見て「え? 本当に?」「なんか胡散臭い…」と思った人もいるかもしれません。


また、実際に当院の患者さんからも、「ずっと先生のところに通っていて今更なんですけど、整体って結局何なんですか?」といったことを、たま〜に聞かれたりします。


いつも患者さんとお話しする内容は、「どうしたらお悩みが改善するのか?」が中心なので、整体そのものの説明は、ご希望がない限りあまりしないんですよね。


今回は、そんな「整体って何なの?」という疑問に答えながら、歴史や今の現状まで、具体的にお話ししていきます。



実は「整体」という言葉には正式な定義がなく、本当にたくさん、ありとあらゆる流派が存在します。その起源についても諸説あり、鍼灸治療と比べると残っている文献が非常に少ないので、はっきり分かっていない部分が多々あります。


ただ、色々な流派を学んできた私としては、どんな流派にしろ、「手で体の不調を治療する」という共通点から、医学的には「手技療法:しゅぎりょうほう」「徒手療法:としゅりょうほう」と呼んだ方が、より正解に近いのではないかと思います。


実際、私が学んできたものは、アメリカのカイロプラクティックやオステオパシー、日本発祥の整体など、が源流ですが、患者さんからすれば、何の流派であるかは特に重要なことではないと思います。したがって、皆さんが理解しやすいように、という意図で当院の手技療法を「整体治療」と説明しています。


日本における「整体」の起源と、昔の療術業


では、この「整体」もとい日本の手技療法はいつからあるのでしょう?


諸説あるものの、そのルーツは意外に古く、江戸時代にはすでに柔術(柔道の元になった武術)の中で、「活法(かっぽう)」と呼ばれる、怪我や体の不調を回復させる手技が行われており、これは現代でいう「整復(骨折や脱臼などへの治療)」や「矯正」に近いものだったようです。


※手塚政孝 「柔術「活法」の文献研究」 から引用

我々、整骨院、接骨院を開業している「柔道整復師」という国家資格の技術も、元はこの活法がルーツとされ、1200年余りの歴史があるようです。


ただ、活法の文献研究では、


~柔術古流においては免許を受けるような段階にならないと活法を教えないといったことでとかく神秘のべ一ルに包まれていたきらいがある。従って柔術各派の伝書にも口伝としてのみで手技、解説について詳細な説明の載っているものは少ない

引用元:武道における活法の応用

という背景から、正確なことはよく分かっていない部分が多いようです。


また、明治から昭和初期にかけて、日本には「療術師:りょうじゅつし」という人たちがいました。彼らは、按摩(あんま)や指圧、中国から伝わった推拿(すいな)といった技術を独自に組み合わせ、地域で手技療法を行っていたのです。(中には先述の活法も組み合わせて治療していたケースがあるかと思います)


しかし、1950年代に入って日本政府が「あん摩マッサージ指圧師」などの国家資格制度を整備したとき、療術師たちはその枠から外れてしまいました。裁判まで起きましたが、結果として、「療術」という言葉は公的に認められなくなったのです。


その後、療術の中から独自の発展をとげた流れのひとつが、「整体」と呼ばれるようになっていきました。特に、昭和30年代に登場した**野口晴哉(のぐち はるちか)**が「整体操法:せいたいそうほう」という考えを広め、「整体」という名称を初めて使った人物とされています。


世界にもある整体の仲間たち


実は、手を使って体の不調を改善するというアプローチは、日本だけのものではありません。世界にも似たような考えの技術がたくさんあり、また、お医者さんが開発したものもあるのです。


  • カイロプラクティック(アメリカ発祥)
     → 背骨や骨盤を調整して、神経の流れを正常化させ、不調の改善を目指す治療法です。アメリカでは「D.C.(Doctor of Chiropractic)」という国家資格があり、医師(Medical Doctor)と並ぶ位置づけとしてWHO(世界保健機構)にも公認されています。
  • オステオパシー(ヨーロッパ・アメリカ)
     → 骨格や筋肉だけでなく、内臓や血流まで含めて全身のバランスを整えようとする治療法。「D.O.(Doctor of Osteopathy)」という公的な資格があり、カイロプラクティックと同様に、病院で働く医師と同じ資格です。

    ※上記、カイロプラクティック、オステオパシーには、ディバシファイド系、ガンステッド、アクチベータ、SOT、クラニオセイクラル、内蔵マニュピレーションなど、その他たくさんの流派があります。
  • AKA博田法(日本)
     → 整形外科医の博田節夫先生が開発。「関節包内運動(かんせつほうないうんどう)」、つまり体の関節の動きに注目し、腰痛や膝痛、股関節、その他の不調を改善する技術です。
  • 操体法(日本)
     → 医師の橋本敬三先生が提唱。「気持ちのいい動き」を通して、体を無理なく整える手法です。力みや脱力を使い、体の動きを利用してゆがみを修正するアプローチ法です。

これらはいずれも「科学的に体を分析し、どうやったら自然に回復するか」を考えて生まれた技術であり、上記のカイロプラクティック以外の3つは、医師が創始した「整体的な」手技療法です。


アメリカやヨーロッパでは、カイロプラクティックやオステオパシーを含めた手技療法全般を「マニュアル・メディスン」として分類し、日本よりも科学的な研究が進んでおり、文献もどんどん増えています



整体を手技療法として考えた場合、今までのお話から、「意外とちゃんとしてるんだ」と思う方もいるかもしれません。


ですが、やはり「怪しい」「なんだか信用できない」という否定的な感情も根強くあるようです。その原因は、日本の整体についての現状にあると私は考えています。


1.日本では無資格でも整体院ができてしまう


日本の国家資格である鍼灸師、柔道整復師、あんまマッサージ指圧師は、法整備がされていますので、鍼灸院・整骨院(接骨院、ほねつぎ)・あんま、マッサージ、指圧院を開業できるのは有資格者に限られます。


ですが、実は、整体院は無資格でも開業できてしまい、つまるところ、誰でも「今日から私は整体師です」と言えてしまうのです。


また、本来であれば有資格者に限られるはずの、あんま・マッサージ業も、「ボディケア」「リラクゼーション」など、つまり、「あんま」「マッサージ」「指圧」という名称を使わず、医療的な効果効能をうたいさえしなければ、事実上マッサージ店を開業できてしまう、という何ともおそまつな状況が、今の日本なのです。


もちろん、この現状はおかしい、と有資格者団体による政府への陳情が何度も行われています。ですが、未だに抜本的な対策はされていないようです


2.無資格者問題+誰でも自由に発信できてしまうSNSの弊害


このように、整体業はいわば「野放し状態」なので、解剖学、生理学、運動学など、本来であれば、人を触るうえで最低限必要な勉強をせずに施術を行っている人がいるようです。


というのも、今やYouTubeやSNS上では、誰でも自由な発信ができるため、専門家から見れば明らかに間違っていたり、危ない施術の動画が堂々と拡散されているのです。


中にはカイロプラクティックを一度も学んだことがないのに、治療法をカイロと名付けていたり、どう見ても単なるリラクゼーションを○○治療として、効果効能を謳ったりと、一部ではめちゃくちゃな発信が横行しています


もちろん、新しいメディアが登場し、誰でも自由に発信できるようになったこと自体は素晴らしいと思います。


ですが、こと整体にかかわる健康産業分野に関して言えば、ビジネスを優先するがあまり、「バズりたい」があまりの、専門家としてはとても賛同できない発信が多数あるのが現状です。


こういったことが原因で、整体をふくめた手技療法が一括りされて、信用を落としているのではないかと、個人的に残念に思っています。



ただ、整体院=無資格だから全部ダメ、というのは偏った考えです。なぜなら、


・ここ数年、理学療法士(PT)という国家資格をもった上で整体院を開業する先生も出てきている(理学療法士はもともと病院勤務が通常で、理学療法士としての独立開業権がないため、整体院として開業するケース)

・上に似たケースで、仮に、アメリカで医師に並ぶ資格であるD.C(Doctor of Chiropractic)を取得して帰国したとしても、それはアメリカやヨーロッパ、WHOでは公認されているものの、日本では認められていないので、治療院の開業は無資格扱いになる

・無資格の整体院を開業している先生でも、独学やセミナーで真摯に勉強され、有資格者をはるかにしのぐ知識、技術をもっている治療家が実際におられる


ということがあるからです。


私としては、①不勉強な人の根拠のない発信を取り締まるため②有資格でも無資格でも、患者さんのために真面目に勉強を続けている先生を守るため、という2つの理由から、一刻も早く、国に資格問題への具体的な対応をしてほしい、と願っています。



結局のところ、整体という言葉は広く使われていますが、医療として本当に役に立つものと、そうでないものがあり、混沌としている状況です。


ですので、整体に関わる情報、特に過剰なアピールばかりの発信には注意してもらい、その上で、真面目に勉強して整体治療を行っている先生も探せばたくさんいるんだ、ということを、一人でも多くの方に知ってもらえれば嬉しいです。


どんな基準で整体を選ぶのか? これは、なかなか難しい部分だとは思います。


ですが、20年以上この道に関わってきた私が知る限りでは、真摯に整体治療をされている先生は、患者さんの不安をあおって通院や回数券、物販などを強要したりすることは絶対にありません。


真面目に治療されている先生は、初めて来院される患者さんの中に、色々な不安や疑問を抱えた方がいることを、ちゃんと理解されています。


だからこそ、コミュニケーションをとても大切にされており、


・お一人お一人のお悩みや不安、ご要望をしっかり聞き
・お体の検査を通して、今のお体の問題点と、どうすれば不調が改善していくのかを、患者さんができるだけ理解しやすいように説明され

・一方通行の押し付けの治療ではなく、患者さんが希望を持って通院できるように


日々の治療をされていると思います。


結局のところ、実際に受診してみないと、どんなことをされるのか、先生の人柄などは分かりませんが、もし、今上げたような真摯な対応をしてくれる先生であれば、きっとあなたの力になってくれると思います。



前回の鍼灸編のお話しに比べ、今回の整体治療編は、やや長文になってしまいました。


これでも、かなりざっくりお話ししたつもりですが、ここまで読み進めた方は、もしかしたら少ないかも知れませんね。最後までお付き合いいただきありがとうございます。


まぁ、兎にも角にも、今回お話ししたように、その昔、正当な医療として定着し、文献も比較的残っていて、法整備もしっかりされている鍼灸治療に比べると、整体治療の世界は本当にややこしく、簡単に説明できない部分が多々あります。


まだまだ疑問が残る部分、例えば、「整体に科学的根拠ってあるの?」「整体でよく言われる「ゆがみ」とか「バランス回復」って結局何なの?」という声がきっとあるかと思いますので、


次回は「整体治療の科学的根拠」について書いていく予定です。先に言っておきますが、次回もおそらく長文です 笑 


もし、ご興味がありましたら、ぜひそちらもご覧いただければと思います。



(監修:柔道整復師・はり師・きゅう師 岡田英士)